応接間に通された私は、社長に促されるままに宗輔の隣に腰を下ろした。

「宗輔の口から早瀬さんの名前を聞いた時は、本当に驚いたよ。まさか、ってね」

元々温厚な方ではあるが、目尻とはここまで下がるのかと思うほど、社長はずっと笑顔のままだった。

その隣に奥様が座っていたが、初対面ではない。これまで何度かお会いしたことがあって、その度に美しい方だと思っていた。その人がやはりにこにことこちらを見ているものだから、照れくさくて仕方なかった。

「早瀬さんとは、今までも何回か会ったことがあるけど、実は普段からあなたの話は聞いていたのよ。うちの人ったら、べた褒めでね。とってもいい人がいるんだって、事あるごとに言っていたの。それほど素敵な人だったら、ぜひ宗輔のお相手にどうかしら、なんて思っていたのに、この人ったら、宗輔なんかにはもったいない、とか言っちゃって。――お見合い話を持って行ってたんでしょ?ごめんなさいねぇ、迷惑だったわよねぇ」

「いえ、そんな……。社長のお気遣いはとてもありがたかったので……」

脇から宗輔が口を挟む。

「だからそういうわけで、もう俺たちには見合い話はいらないからさ。この年末年始で、どうせまたたくさん集まってるんだろ?俺たちには回さないでくれよ。それを早いうちに言っておきたくて、今日は彼女を連れて来たんだ」

社長は、あはは、と笑った。

「もちろん、もう二人には声をかけないよ。――しかし、早瀬さんが宗輔とねぇ……。いつだったか、二人で食事に行った時がなかったかな?やっぱりそれがきっかけだったりするのか?宗輔、確かその時、私に口裏を合わせるように電話してきただろう?」

社長が言っているのは、宗輔が初めて会社に顔を見せた日のことだ。あの時、彼は自分の父親をだしに使ったのだった。

「あれは色々事情があったんだ。それでとにかく、こういうことになったわけだ。な?」

経緯のほとんどを端折って話す宗輔に、私は曖昧に笑いながら頷いた。

「え、えぇ。……社長。あの時は、色々とご迷惑をおかけしたのでは?」

「迷惑?全然そんなことはないよ。それよりも、それまでそういうことにはあまり関心がなさそうだった宗輔が、そうまでして早瀬さんを食事に誘ったっていうことの方が驚きだったからねぇ」

「は、はぁ……」

にこにこしながら私たちを眺める社長夫婦を前に、私は恥ずかしさに額際に汗がにじみ出てきそうになった。