君との出会い。
何の変哲もない他愛もない会話から始まった。
君はいつも忙しなくて危なっかしくて、
ツインテールが良く似合う子だった。
僕はそんな君が大好きだった。
2人で記念日を祝って、クリスマスを祝って…。
何気ない会話で笑って、泣いて…。
君は僕の誕生日にプレゼントとケーキも用意してくれたし、僕も君の誕生日に君が欲しがっていた髪留めと君の好きなブルーベリーのタルトを用意したんだ。
でも、その日君は帰ってこなかった。
LINEをしても既読がつかない。
僕は心がボロボロだった。
机の上には昨日用意したケーキと君に渡すはずだった髪留め。
君のいない世界に意味は無いと、包丁を手に取った時
僕のスマホに1本の着信。
そこには、紛れもない彼女の名前。
急いで電話に出ると、知らない男の声。
そして、彼はこう告げた

「○○市-‪✕‬‪✕‬丁-△△病院の竹中です。高音ひなさんの携帯の中に、親族の方と、あなたの名前があったのでお電話させて頂きました。親族の方にも連絡したのですが、応答がなく…」

僕は考える暇も無く、家を飛び出した。
がむしゃらに走った。
病院に着く頃、僕の足は泥まみれだった。
そこで僕が目にしたのは変わり果てた君の姿だった。
たくさんの管に繋がれて綺麗な髪もぐちゃぐちゃになってしまっていて綺麗な顔を覆うように包帯がぐるぐるに巻かれている。

「担当医の竹中です。まずはお越しいただきありがとうございます。あまり時間がありませんが、まずは着替えを用意しましたのでそちらに着替えてください。話はそれからです。」

言われた通りに着替え、レントゲン簡単な検査を受けて担当医と二人で話をした。
彼女はとても危険な状態にあること、ここに運ばれてきた時は見るに堪えない程だったそう。
大型トラック側の不注意によって起こった事故だったらしい。不幸中の幸いだったのは、即死ではなく彼女は一命を取り留めたということ。そして、医師はこう告げた。

「もし仮に、ここから回復に持っていけたとしても後遺症が残り、社会復帰は不可能になるかと…。お気づきになられているでしょうが彼女は脳や内蔵に深刻なダメージを負っています。正直、私も今まで様々な患者さんを見てきましたが、彼女が置かれている状況は前例が無いんです。
心臓が動いているのが奇跡なんです。ですが後遺症を和らげ、社会復帰も可能にできる方法が、低確率ですがあるんです。」

彼は少し躊躇った後、重い口を開きこう言った。

「ドナー…いわゆる移植です。この話をあなたにしているということ、あなたならお気づきかと思います。」

何となくそんな気はしていた。恐らく僕の臓器が適合していたのだろう。

「ですが…あなたは彼女のダメージを受けた臓器と全て適合していた………!脳も含めてです…!」

医師は悔しそうにそう言った。

「先生、僕の全てを彼女に使ってください。彼女の笑顔は、人を幸せにする力があるんです。
彼女の笑顔はここで奪われて欲しくないんです。
そしてこれが、今の僕が彼女にしてあげられることなんです。僕は昔から今日まで、ずっと無力だった。彼女を守るほどの権力も、地位や富も無かったんです。でも彼女は『あなただから私はあなたを好きになれた。』そう伝えてくれた。その言葉に、僕はずっと救われたんです。今この選択こそが僕が彼女にしてあげられる唯一の恩返しなんです。」

医師は何故か泣いていた。
そして彼は僕に謝った。何度も。
力不足でごめんなさいと何度も何度も。

とても低確率と言っていた移植の手術も、彼が担当してくれた。
10時間以上に及ぶ手術は無事に終わった。
数時間もしない内に私は目を覚ました。
朦朧としている意識の中で医師は私に彼のこと、そして直前言っていた私への想いを伝えてくれた。
麻酔が残っていて感覚が無い私でも分かるくらいに顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
麻酔が切れてからも、嗚咽しながら泣いた。
泣き疲れて天井を眺めていると、彼の声がした。

「ひな。泣かないで。君の笑顔はこの世のどんなに美しい宝石よりも価値のある物なんだよ。君に涙は似合わないと、ずっと言っていたでしょ?ひなはその度に顔を赤くして否定をしたよね。でも、いつもひなは笑顔だった。僕の記憶のひなはずっと笑顔で可愛かった。そんなひなの笑顔を護りたかった。僕は君と出会ってから何もしてあげられなかった。これで君の心を救える訳では無いけど、これしか無かった。
それに君の笑顔だけは誰にも奪わせちゃいけないって思ったから。」

声を出したくても、上手く声が出なかった。

「僕は完全に消えるわけじゃない。
僕は君の体の中で生き続けている。君が生きている限り、君が僕を覚えてくれている限り。
でも、僕は行かなくちゃいけないんだ。
それじゃあ、さようなら。僕の大切な人。」

気がつくと彼はいなくなっていた。

「いかないで……」

消えかけの声を振り絞って告げた一言はそれだけだった。
今も当時のことを思い出すと涙が出る。
だけど、彼を忘れたいと思ったことは1度もない。
それほど、私は今も彼一筋だから。
私はこの先、ずっと独り身でいるつもりだ。
彼は絶対に『君は幸せになるべきだ』と言うだろうが、
私は彼から貰った愛だけあれば、充分幸せなのだ。