「ですが、どこでなにがあるかわかりませんので」


わたしは本当はトイレに行きたいんじゃなくて、この社交ダンスの授業をサボりたいだけなのに。


「大丈夫だって…!だから、昴くんはここにいて――」

「それでは最後の列、スタンバイしてください」


昴くんとそんなやり取りをしている間に、いつの間にか順番がまわってきてしまった…!


「佐藤さん?どうかしましたか?」

「あ、…えっと。先生…、わたし……」


どうしよう…。

『踊れません』と素直に言う?


「佐藤財閥のご令嬢だもの。きっとこれまでたくさんのパーティーで経験されてきたに違いないわ」

「楽しみね、佐藤さんのダンス」


逃げ出したいところだけど、周りからの期待のまなざしが痛いくらい突き刺さる。


「佐藤さん、そんなところで突っ立っていないで。早くペアを選びなさい」