動かないでと言われても、慎太郎の急接近に驚いたわたしはそもそも動けない。


慎太郎くんは、そっとわたしの顎に手を添える。

まさかと思い、とっさに目をぎゅっとつむると――。


「取れたよ」


そんな声が聞こえて目を開けると、慎太郎くんの親指の腹にカスタードクリームがついていた。


「唇の下についてたから」


どうやら、口元についていたカスタードクリームを指で拭ってくれたようだ。


…わたしってば、てっきりキスされるものかと。


そんなことを考えていたら、頬がぽっと熱くなるのがわかった。

恥ずかしくなって、わたしは残りのクレープを無言で頬張る。


「ほんとアリスちゃんってかわいいよね」


ふとそんな声が聞こえて顔を上げると、やさしいまなざしで慎太郎くんがわたしのことを見つめていた。