***

 望ちゃんが向かったと思われる台所。
 そこに行こうとしたはずなんだけど……。

「どこだろ、ここ?」

 お屋敷が広くて、迷ってしまった。
 スマホだけは持ってきてるからいざとなれば望ちゃんに聞くことも出来るけど、今はきっと料理で忙しいよね? と思ってもう少し自力で頑張ってみることにする。
 朔さんや他のお兄さんたちの番号も登録してあるけれど私から連絡したことはないし、はじめての連絡が家の中で迷いましたっていうのはちょっと恥ずかしい。

 でもそうして迷って進んでいたら、(ふすま)の横の柱に【弦】と書かれた札がついている部屋を見つけた。
 他の部屋にも【朔】【晦】【満】と札がついているのが見えたから、きっとこの辺りはお兄さんたちの部屋なんだね。
 そして弦さんの部屋から物音が聞こえるから、きっと弦さんは中にいる。
 私はこれ以上自力で戻る道を探すのをあきらめ、部屋の中にいるだろう弦さんに声をかけた。

「すみません、弦さん」
「っ! え? その声、あさひちゃん!?」

 驚く声が聞こえて、なんだかバタバタとせわしない音が聞こえる。
 サッと開けられた襖から出てきた弦さんは、長めの前髪をてっぺんで結んでラフな格好をしていた。
 制服では見えなかった筋肉のついた足が見えて、やっぱり男の子なんだなぁって思ってしまう。

「今日うちに泊るって聞いてたけど、ここまでくるなんてどうしたの?」
「いや、実は迷っちゃって……」

 驚く弦さんに、私は後ろ頭に片手を当てて苦笑しながら迷ったことを話した。