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 教室の出来事で、望ちゃんともっと仲良くなれた気がする。
 望ちゃんもそう思ってくれているといいな。
 笑顔の私たちは、当初の予定通り学校内を回っていた。
 保健室、体育館、家庭科室、理科実験室。
 一通り場所の把握をしてから、望ちゃんは武道場に案内してくれた。
 行くって約束したわけではないけれど、来いよって朔さんに言われていたし。

「日輪中では剣道部と空手部があって、放課後の武道場は隔日でどっちかの部が使ってるんだ」

 そして今日は空手部の番なんだ、と望ちゃんは説明してくれた。
 武道場の入り口をそっと開けた望ちゃんは、「あ」と小さく声を上げて私を手招きする。

「ちょうど良かった。今朔兄が組み手するみたいだよ?」
「組み手?」

 ドアの隙間から覗き込んで見てみると、すぐに朔さんの姿が見えた。
 道着姿の朔さんは今朝や昼のような眠そうな顔をしていない。
 無表情なのは変わらないけれど、初めて見たとき――望ちゃんを助けに走って行ったときのような真剣さがあった。
 ピリリと張り詰めたような空気を感じる。
 剣道の試合をするときの緊張感を思い出して、自然と背筋が伸びた。

「よろしくお願いします」

 相手にキレイなお辞儀をした朔さんは、自然な流れで構える。

「はじめ!」

 顧問の先生の声に、朔さんと相手の人が動き出した。