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他愛もない会話をしながら食事を終え、一緒に頼んだ食後のデザートを楽しんでいたときだった。


「訊いてもいいかな。」


顔を上げると、常田は緊張した面持ちでひばりを見つめていた。


「なんでしょう?」


ひばりは小首を傾げた。そんなひばりを見て常田は先日のようにグッと何かを堪えるような顔をした。すぐにふっと短く息を吐くと、表情を引き締めて口を開いた。


「どうして自衛官と関わりたくないのかなって。」
「あぁ…。」


持っていたフォークを置くと水を一口飲んだ。まさか自衛官本人に直接言う日がくるとは思っていなかった。
世の中にはいろんな意見の人がいる。だから自分が間違っているとは思わなかったが、それを本人に直接向けるとなると罪悪感が募る。だがもう、ここまできたら言うしかあるまい。ひばりは俯いたまま言葉を紡いだ。


「私、警察とか消防とか自衛隊とか好きなんです。」
「うん。」
「でも死ぬリスクが他の仕事に比べて圧倒的に高いと思うんです。だからこそ尊敬もしてるし感謝もしてます。でも同時に、知り合いが死ぬかもしれない恐怖を抱えて付き合っていくなんてしんどいから…。」
「うん。」


そっと顔を上げると常田はしっかりとひばりを見つめたまま話を聞いていた。その表情はとても優しかった。


「……もしかして、知ってました?」


常田はバツが悪そうに苦笑すると「ごめん」と謝った。ひばりはすぐに麻衣の顔を思い浮かべた。けれど麻衣は良かれと思って言ったんだろう。あのままではひばりは完全に嫌な奴だった。それをフォローしようとしてくれたんだろう。
ひばりは苦笑して心の中で麻衣をなじった。ひばりに言わせれば麻衣はその辺がヘタクソだ。だがそれが彼女のいいところでもあり、憎めないところでもあるのだ。


「そういう訳なので、もう常田さんとはお会いしたくないんです。ごめんなさい。」


そう頭を下げた。


「ひばりさんはどうして警察とか自衛隊好きなの?」


そう問われて顔を上げると常田は相変わらず優しい顔をしていた。これは単に興味があっての質問なのだろう。そうは分かっていても、途端にひばりは恥ずかしくなった。


「えっと…かっこいい、から…。」
「どうして?」
「……人のために命張れるのって、普通できないから…。」


身内や大切な人ならまだしも、見ず知らずの赤の他人のために命を張ろうとは到底思えない。特に自衛隊は訓練中の殉職の可能性も他に比べて高い。そんな自分にはできないことをやっている人たちは、やはりかっこいい。
せっかくなのでひばりも常田に訊いてみることにした。


「常田さんはどうして自衛官になったんですか?」


常田はキョトンとした後、ニカッと笑った。


「かっこいいから。ひばりさんが言ったまんま。」
「え。」
「時代が時代なら新撰組みたいに武士に憧れてたんだと思う。」


なんてこった。ひばりは心の中で頭を抱えた。そこまで一緒なのか。ひばりは新撰組もその志も好きだった。もちろん武士も好きだった。


「分かります、それ。」


観念してそう笑うと常田も笑った。


「なんかそんな気がした。」


今日は早く帰ろう。そして少女漫画を読み漁って、ゆっくり美味しい物を食べてたくさん寝よう。そして、寝る前には常田の連絡先を消そう。そう心に決めた。