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肩を落としてテーブルに戻ってきた常田に彼の同僚はニヤニヤしながら声をかけた。


「どうだったー?」
「馬鹿、訊いてやるな。」


同僚たちは常田がテーブルの上にスマホを置き忘れていたことに気が付いていたため、連絡先はまず交換できていないと分かっていた。
同僚の芹沢は席に戻った常田の肩を軽く叩いた。この中で芹沢は常田が最も気を許せる相手だった。そして1番のやり手である。


「で、ひばりちゃんは何て?」


いくつかいい感じの組み合わせができ始めたタイミングでひばりの友人の麻衣を引っ張ってきて作戦会議を始めてくれた。


「『私、特に自衛官とは関わり合いになりたくないの!』って…真っ向から振られました。」
「お前言ったのかよ。」
「『役所とか学校じゃなくて、警察とか消防とか自衛隊関係の方ですよね?』って…そこまで言い当てられたらもう隠しきれねぇよ。」


相手がいいなと思った女性なら尚更だ。リスクヘッジはもちろん大切だが、嘘をついて後々バレたときの方がやばいというのは明白だった。


「私が悪いんです、ひばりを怒らないでください…。」


麻衣はしょんぼりしながら言った。


「私が無理矢理連れてきたから…。」
「無理矢理?」
「ひばりは今日数合わせで来てくれたんですけど、ひばりには皆さんの職業を黙ってたんです。絶対好みの人いるからって…。」


女性側の幹事は麻衣が務めていたため、麻衣は事前にこちらの職業を知っていた。とはいえ常田たちとしてもあまり職業は明かされない方が助かるので、麻衣の判断を批判するつもりはなかった。


「俺ら全員期待外れだったってことかな。ってなるとお前希望薄いんじゃないか?」


悪意のない芹沢の言葉が先程受けたばかりの傷に塩を塗る。確かに会って1時間足らず。今ならそういうことかと受け入れられる。


「でも常田があんな風に追いかけるなんて珍しいよな。」
「自分でもびっくりしてる。」


苦笑する常田はひばりが来た時を思い出していた。正直一目で彼女が大して乗り気でないことは分かった。数合わせと聞いて納得したくらいには、他の3人に比べて服装からして気合いが入っていなかったからだ。けれどそれを差し引いても有り余る程常田にはひばりが魅力的に見えた。
ナチュラルな化粧やシンプルな服装から彼女の几帳面さや品の良さが滲み出ていたし、毎日の暮らしを大切にしているんだろうなと思った。
一方で話し始めれば気は利くし、話の引き出しも多い。相手に不快な思いをさせずに場を盛り上げるのは想像以上に難しいが、ひばりは容易にそれをやってのけた。

常田は思った。
--結婚するならこんな女性がいい。
安心して家庭を任せられるとそう感じた。きっとそう感じたのは常田だけではない。ひばりが早々に戦線離脱していなければ、今頃水面下で火花が散っていたことだろう。


「気付いたら追いかけてたんだよな。もうこんなチャンス早々ないんじゃないかと思って…。」
「…本当にもうチャンスねぇのかな。」


芹沢は麻衣に視線を向けた。


「……どう、なんでしょう…。」


麻衣はしばらく考え込んだ後、表情はそのままに口を開いた。どうやら1人で考えても答えは出なかったらしい。


「ひばり、警察とか消防とか、自衛隊とか…、大好きなんです。」
「え…?」


想定外の言葉に、常田と芹沢の口からは自分たちでも笑ってしまう程間抜けな声が出た。