6月に入り梅雨のジメジメした日々が続く。
世の中はみんな憂鬱な雰囲気を醸し出している。

私はというと、1年の中で1番梅雨が好きだ。
UVケアをしなくて良い日なんてそうそうないし、雨の音は心を癒してくれる。

1人気持ちは心なしか浮かれていた。

「椎名さん、私、今日定時で帰らなくちゃ行けなくなっちゃって、19時までの返却業務、変わってもらえない?」
定時まで後15分というところで、2年先輩から声をかけられる。私にだって予定はあるんだから…と言いたいけれど、特に誰かと会う予定なんて有る訳もなく…。
「変わります。特に用事も無いですし…。」

「ありがとう。良かったぁ、いつも助かるぅ。」
先輩はアザと女子を振り撒いて、男性職員の大半を虜にしている。

陰キャの私には到底真似できない人種だ。
そして、私は今夜も残業をする。

私が働く図書館はオフィス街の駅近くにある為、通常の図書館より少し閉館が遅くなっている。

遅番の人は出勤も2時間遅いのだけど、私は通常勤務だったから2時間の残業になる。特に難しい作業はないが、来客も少ない時間の為暇を持て余してしまう。
今夜も18時を過ぎると、途端に来客が途絶える。

「椎名さん、また今夜も遅番押し付けられたの?ちゃんと無理だって言わないとつけ込まれるぞ。」
ここの館長は就職の際の面接官だったから、いろいろ個人情報を知られている為、あまり深入りしたくない人物だ。

「椎名さんは島の出身だったよね。やっぱり空気とか違うんじゃない?俺、釣り好きだから一度行ってみたいんだよね。」
お喋り好きな館長はこの暇な時間をお喋りで乗り切ろうと、コミュ症の私に話しかけて来る。
「私、釣りはした事なくて、漁師町でしたけど…フグの養殖が有名な町です。」

「そんな良いところで育ったのに、釣りした事ないなんて勿体無い。今度教えてあげようか?」

「いえ…私、インドア派なんで…。」

「ああ…そうなんだ。やってみると楽しいと思うんだけどなぁ。」
私の素っ気ない対応に、さすがの館長も話しが尽きたみたいだ。

その後は黙々とそれぞれ、本の修理をしたり返却本のチェックや棚の並びの直しなど、なんとなく仕事をして時間を潰していた。