スマホで連絡してから吉野くんの家に着くと、そこには吉野くん以外に、大森くんと、それに大人の男の人がいた。

「悪い、こんなことに巻き込んで」
「いいから。それより、日向ちゃんはまだ見つかってないんだよね?」
「ああ。もう少し探して見つからないようなら、警察に知らせるのも考えてる」

 警察って言葉に、大事になりそうってのを改めて実感する。

「探すって、どこを?」
「とりあえず家の近所を。日向が自分で帰ってきた時のために、父さんは家に残って、俺と俊介で手分けして探してる」

 そばにいた男の人に目を向ける。
 この人が、吉野くんのお父さんだったんだ。
 前に聞いた話じゃ、いつも帰ってくるのはもっと遅い時間っぽかったけど、さすがに今日はすぐに帰ってきたみたい。

「坂部さん、だったね。手伝わせてしまって申し訳ない。それでも、日向を一緒に探してくれるなら、どうかお願いします」

 深々と頭を下げる、吉野くんのお父さん。
 それから、私と吉野くんと俊介くんの三人は、すぐに家を出て日向ちゃんを探しに向かう。

「坂部は、誰かと一緒にいた方がいいんだよな?」
「うん。お父さんと約束したから」

 本当は手分けして探した方がいいかもしれないけど、一人にならないって約束した以上、それを破るわけにはいかない。

「じゃあ坂部さんは、吉野と一緒ね。俺で、別のところ探すから」

 大森くんは、そう言って私たちと別れる。
 私は吉野くんについて行くことになったけど、吉野くんはいったいどこを探すつもりなんだろう。

「日向ちゃんが行きそうな場所、心当たりってあるの?」
「特別ここだって場所はない。けど、日向をよく連れていく所ならいくつかある。そういうところを片っ端から探していくつもりだ」

 そうして向かったのは、小さな神社。すぐ側が公園みたいになってて、滑り台やジャングルジムのような遊具が置いてある。
 パッと見ても日向ちゃんはいないけど、もちろんこれで終わりじゃない。
 暗くて見えにくいし、どこかに隠れているかもしれない。
 もっと細かく探さないと。

「日向ーっ!」
「日向ちゃーん!」

 名前を呼びながら、神社の裏や遊具の中を見て回るけど、日向ちゃんは見つからない。
 探し方が悪い? それとも、ここにはいないの?

「もっと日向をよく見ておくんだった。そっとしておこうなんて、思うんじゃなかった」

 途中、吉野くんがそんなことを言う。
 今さらそんなこと言ってもどうしようもない。それでも、考えずにはいられないのかもしれない。

「さっき、父さんに言われたんだ。日向のこと、任せ切りで悪かったって。けど俺がもっとしっかりしていたら、保育園のケンカも家出も、しなかったかもしれない」
「そんな……」

 いくらなんでも、そこまで吉野くんが責任を背負うことなんてない。
 そう思ったけど、さっき保育園で、けんくんのお母さんが言ってたことを思い出す。

『親がろくに面倒見れないなんて、まともにならないのも当然ね』

 そんなことないって、大声で言ってやりたかった。
 だけど吉野くんは、私よりもずっと、その言葉を気にしていたのかもしれない。
 こんなに落ち込む吉野くん、一度だって見たことがない。
 だから、言わなきゃ。

「…………そんなこと、ないから」
「坂部?」
「吉野くんがしっかりしてないからダメって、そんなこと、絶対にないから!」
「坂部……」

 吉野くんが日向ちゃんの面倒を見るところ、たくさん見てきた。
 それを否定するようなことを、他の誰でもない、吉野くん自身に言ってほしくなかった。
 それに……

「私、たっくんから聞いたの。どうして日向ちゃんが、叩いたりしたのか」

 さっき聞いた話を、今ここで伝えようとする。
 だけどそれは、話す前に止められた。

「その話は、日向を見つけてから聞くことにするよ」
「あっ、ごめん。そうだよね」

 そうだ。今は何より、日向ちゃんを見つけることを優先させなきゃ。
 話すのは、それからでも遅くない。

「けど、後でちゃんと聞くから。何があったか、全部話してくれ」
「うん」
「それに、ありがとな。おかげで、元気出た」

 それから私たちは、また何度も日向ちゃんの名前を呼ぶ。返事がないか、耳を澄ませる。
 だけど、相変わらず何も聞こえない。
 やっぱりここにはいないのかな?

「ここは諦めて、別の場所を探した方がいいか?」
「うん。そうなのかな」

 これだけ探して見つからないなら、ここにはいないのかも。
 ん? でも、ちょっと待って……

「ねえ、吉野くん。日向ちゃんとは、何度もここで遊んだんだよね?」
「ああ、しょっちゅうだ」
「ならその時、かくれんぼってしなかった?」
「そりゃ、何度か…………そういうところに隠れてるってのか?」

 日向ちゃんがここで何度も遊んでたなら、普通に探しただけじゃわからない、秘密の隠れ場所ってのを知ってるかもしれない。

「本当にそうかは、わからないけど……」
「どのみち、どこにいるかなんてわからないんだ。もう少しだけ探してみる」

 吉野くんはすぐには動かず、じっと何かを考えている。
 思い出しているんだ。日向ちゃんと一緒にした、かくれんぼのことを。

「日向がよく隠れてた場所。それでいて、まだ見てない所……」

 小さく呟いてから、ハッとしたように駆け出す。
 後を追いかけると、神社のすぐ側にある茂みの中に入っていった。
 道があるわけじゃないけど、伸びた茂みがトンネルみたいになってて、小さい子が隠れるのにはちょうどよさそう。
 背の高い吉野くんは苦労しながらその中を進むけど、間もなくして、茂みのトンネルがちょっとだけ広くなる。
 そこに、日向ちゃんはいた。

「日向!」

 日向ちゃんは、横になって眠ってた。

「ケガ、してないよね?」
「ああ、多分な」

 吉野くんは日向ちゃんを抱えて、ホッとしたように息をつく。
 それからユサユサと体を揺らすと、日向ちゃんは、閉じていた目をゆっくりと開いた。