「嘘? なんで?」

 私を脅かしたかったの?
 でも、そんな理由でわざわざ連れ出したりはしないよね。

「草野さんって少し前に、星と色々あったからね。で、坂部さんは最近星と仲良いだろ。揉めてるんじゃないかって思ってね」
「揉めるだなんて。ただちょっとお願いされて、断っただけだから」

 けど、大森くんが来てくれて助かったのは本当。
 あのままじゃ、なんで断るのか説明できなかったと思うから。

「でも、草野さんのお願い、断ってよかったのかな?」
「お願いって、いったい何なの?」
「実は……」

 さっきあったことを、大森くんに話す。
 そしたらますます、これでよかったのかなって思えてくる。
 草野さんが本当に吉野くんを好きなら、私に邪魔する権利なんてないのかも。

「それってさ、断ってダメなことってあるの?」
「えっ。だって……」

 草野さんのお願いに、私の悩み。大森くんは、それらを実にバッサリと切り捨てた。

「草野さん、もう吉野フラれてるんだよ。なのに坂部さんまで巻き込んで近づこうとするのって、普通に迷惑じゃない?」
「それは……」

 誰かを好きになるのが悪いなんて思いたくない。
 けど大森くんの言う通り、やりすぎると迷惑になることもあるのかも。

「だからさ、坂部さんが気にすることは無いと思うよ」
「うん、そうだね。ありがとう」

 そう言ってくれると、心の中が少し軽くなったような気がした。

「だいたい、恋のライバルにそんなこと頼むなんておかしくない?」
「ふぇっ!? ライバルって、誰が!?」

 って、そんなの私しかいないよね。

「ち、違うから! 私と吉野くんはそんなんじゃなくて……」
「そう? 星がこんなに女の子に構うなんて珍しいし、坂部さんだって星のこと嫌いじゃなさそうだから、てっきりそういうことだと思ってた」
「いやいや、吉野くんが私に構うのは、たまたま私が日向ちゃんのことを知っただけだから」

 大森くんは、吉野くんのおうちの事情を知ってる数少ない人。
 私と吉野くんが話すようになったきっかけだってしってるし、吉野くんが私に構う理由も、わかってると思ってたんだけど。

「けどさ、きっかけが何であっても、星は興味ないやつに、自分から絡んだりしないよ」
「そ、そうなの?」
「そうだよ。氷の王子様は伊達じゃないって。ほとんどのやつには、本当に冷血人間なんだからさ」

 酷い言い様。これ、吉野くんが聞いたら怒るんじゃないかな?

「坂部さんにそんな気がないなら、わざわざ意識しなくてもいいと思うけどね。けど吉野のこと好きなら、ガンガンアタックしていきなよ」
「だから違うってば!」

 私が声をあげると、大森くんはおかしそうに笑う。
 そうか。大森くん、私をからかってるんだ。
 もう。本気にするところだったよ。

 思わずドキッとしたけど、きっと気のせいだよね。