小坂くんだけがずっと無表情のままポケットに両手を突っ込み、何も言わずに教室を出ていった。



「ちっくしょう。なんだあいつ!感じ悪りぃ!」


「元はと言えば山崎が悪いんだからね?小坂くんが私のこと好きなわけないでしょ」


「いやでも、たしかに隣のクラスのやつから聞いたんだけどな…」



ハッと私も我に返り、執筆途中だったスマホの画面を閉じてポケットにしまう。


もうすぐ始業式で体育館に移動するはずだ。その前にトイレを済ませておきたかった。



教室を誰にも気づかれることなくひっそりと抜け出して、近くの女子トイレに向かおうと廊下を歩き進める。


トイレの手前の壁の前で隣のクラスの男子三人組がたむろっていて、やだなぁと思いながらもその前を通り過ぎて女子トイレに入ろうとした時だった。



「おまえまじかよ?あの山崎に、小坂が高城さんのこと狙ってるって嘘の情報流したの?」



トイレのドアを開けようとしていた手が、ぴたりと止まる。