「あのね、私…自分の名前が嫌いなんだ。柚と同じなの。私も二個上のなんでもできる優秀なお姉ちゃんがいて、いつも比べられてきた。私のいる意味なんて家でも学校でも感じたことが一度もなかったの。そんななんにもない空っぽな“空”って名前が、何よりも一番嫌い」



ずっと自分の名前が大嫌いだった。


空気の“空”、空っぽの“空”、何もない私を強調させるそんな名前がずっと嫌いで、憎かった。



「高城さんみたいに名前も存在もみんなから愛されている人に、なりたかった…」



私はただ、一人でもいいから私のことを好きになってもらいたい。


だけど自分ですらこんな私が大嫌いなのに、他人が好きになってくれるわけがない。



「高城さんにこんな弱い自分を見せて嫌われたくなくて、逃げてたの。私にとっても高城さんの存在がどんどん大きくなっていたから。初めてできた友達だから、失いたくなかったの」


「…バカだよ、萩原さんは」



高城さんが両目に涙を溜めて、きっと私を睨みつけてきた。