小坂くんは千円札を一枚机の上に置くと、頼んだコーヒーに手もつけずにお店を出ていった。


その後を追いかける人は、誰もいなかった。





–––––「…俺はもう、誰にも期待しないと決めているんだ」



家に帰ってからも、小坂くんの言葉と去り際に見せた少し切なそうな表情がずっと頭にこびりついて離れなかった。



小坂くんはどうしてあんなに全てを諦めているんだろう…?


普段から人と関わろうとしないのも、何か理由があるから?



「…空?なにあんた、帰ってたの?」



洗面所で手を洗っていると、リビングから来たお母さんが不機嫌そうな顔で私を一瞥し、棚にタオルを入れていた。



「あ、うん。ただいま…」