「あ、いえ……。社長に心配されるようなことは」

栗花落が咄嗟に言葉を濁すと、翔は不満そうに目を細めた。

「俺が社長だから言えないのか? それとも、違う理由で話せないのか?」

栗花落は力なく、首を横に振る。

「……なんでもないんです。気にしないでください」

すると、今度はムッと、口をへの字に曲げた。

「なんでもないのに、こんなところで泣くのか?」

(確かに、変だよね……。自分で言ってて、支離滅裂)

そもそも、会社で泣くようなことがあるなんて、よっぽどのことだ。
栗花落は観念して、ようやく本音を口にした。

「すみません。なんでもありました」

すると、翔は執務室の扉を開き、栗花落に声を掛ける。

「中に入ろう。ここなら、誰にも会話は聞かれないから」

「……はい」