ずっと、心待ちにしていた言葉は、この瞬間の為にあったのだ。
一番に欲しかった言葉は、新しい命と一緒に、栗花落の下へと届く。

「……嬉しい」

それだけ呟いて、栗花落は俯いた。
嬉し涙が流れてきて、栗花落は鼻を啜る。

(なんて良い日なの? 今日のことは……一生忘れない)

手の甲で涙を拭うと、翔はそんな栗花落の身体を抱きしめて、囁く。

「この先も一生、栗花落と新しい命を、大切に守り抜く。そう、約束する」

そんなプロポーズとともに、彼は鞄の中から、一つのジュエリーケースを取り出した。

「いつでもプロポーズできるように、用意しておいたんだ」

彼はそう言って、ジュエリーケースを目の前で開く。
そこには、大きなダイヤがあしらわれた、美しい婚約指輪があった。

「つけてもいいか?」

翔の提案に、栗花落は笑顔で頷いた。

「うん。つけて?」

翔は、栗花落の左手の薬指に、その指輪をはめる。
キラリと輝くそのダイヤは、見ているだけで心が満たされるようだ。
栗花落は左手を右手で覆うように抱きしめて、花が咲いたような笑みを見せた。

「ふふっ。ありがとう!」

そして、栗花落は続けた。

「――――これからも、末永くよろしくお願いします」

翔と、この先の人生も一緒に生きていく。
そのことに、もう一抹の不安もない。

「ありがとう、栗花落。愛してる」

彼がくれる底なしの愛に溺れ、栗花落はまた一筋の涙を流した。

(ああ。なんて、温かいの……?)

彼がくれる温もり、優しさに、心が救われる思いだ。

────この人となら、一緒に子どもを育てられる。

だからもう、何も不安なことはない。

(早く、生まれて来て? 私たちの、赤ちゃん)

栗花落はそう思いながら、小さく笑みをこぼした。