栗花落は堪らず、その名前を呼ぶ。
ちゃんと言わなきゃダメだ。
このまま、逃げ続けるのは絶対にダメだ。
すると、彩絵は力なく栗花落を見つめた。
「私、彩絵ちゃんのこと、一生許さないから!」
「……」
きっと、これが正しい。
今の彼女には、優しい言葉なんて必要ない。
「私、彩絵ちゃんのこと大嫌いだし、他部署に異動って聞いてスカッとした。もう顔合わせなくていいんだって、安心したよ!」
ようやく、彩絵と本音で話す勇気が持てた。
だから、一番大切なことを言おう。
「……だからさ、彩絵ちゃん。もう、恨みっこなしだよ?」
「……先輩」
彩絵は呟く。
栗花落は続けた。
「私たち、もうお互いのこと、全部忘れよう。それがいいよ。彩絵ちゃんはもう、私のことを憎まなくていい。嫌な思いなんてしなくていい。私も、彩絵ちゃんのことは全部忘れるから。勝のことも、全部忘れる。ね? それがいいよ」
すると、彩絵は納得のいかない顔をする。
「……なんて、都合のいい言葉」
それから、彩絵はキッと眉を吊り上げて、叫んだ。
「私のこと、大嫌いなくせに!」
「そうだよ! 大嫌いだって、さっき言ったじゃん!!」
今、言葉にしていることは全て真実だ。
もう、周りの事情なんて気にしない。
これが──最後だから。
「全部忘れるなんて、都合がいい! そんなことするわけない!」
「それでも、全部忘れるから! 私! 自分が不幸だった時間を思い出すよりも、幸せだった時間を大切にする方が好きなの!」
これからは、もっと真剣に翔と向き合う。
今度こそ、対話を重ねて、お互いのことを思い合った関係を築いてみせる。
勝の時と、同じ轍は踏まない。
「……っ。あっそ!」
観念したように、彩絵は吐き捨てる。
「分かりました。もう、どこへなりとも異動します! 窓際部署、大歓迎ですよ! どうでもいい!」
続けて、彩絵は投げやりに叫んだ。
「もう、会社も辞めようかな! 惨めな思いするだけですよね!」
「「……」」
その時、しばらくの沈黙が流れる。
やがて、翔が口を開いた。
「この状況でそれを言っても、誰も引き止めてくれないぞ?」
すると、彩絵は途端に泣きそうに顔を歪めた。
「……っ。知ってますよ! そんなの!」
その姿は、見ていて可哀想な気もするくらい、幼く見えた。
きっと、彩絵はこれから色んな苦労をしていくことになるだろう。
勝と関係を持ったことを、後悔する日も来るかもしれない。
「自分がしたことを悔い改めるんだな。俺は君に、一切の同情はしない」
その時、彩絵は初めて、一筋の涙を頬にこぼした。
「はいはい! そうですね! 私が悪かったです! はぁ~~!」
彩絵はそれだけ言って、手の甲で涙を拭いながら、スタスタと廊下を歩き去っていく。
(これで全部、終わったのね。勝とのことも、多少は蹴りがついたのかも)
取り残された栗花落と翔は、互いの顔を見合わせて、栗花落が先にお礼を述べる。
「ありがとうございます。社長」
「……いや。葛西さんこそ、大変だったな」
栗花落は静かに首を横に振る。
「社長が助けに入ってくれたから、なんとかこの場を収めることができました。私一人では、絶対に彩絵ちゃんに言い負かされていたと思います。ありがとございます」
「……だといいんだが」
翔には、いつも助けられてばかりだ。
本当に助けが欲しい時、翔はいつも隣に居てくれる。
それがどれだけ心強いことか、彩絵は翔に出会って初めて知った。
「この際だ。元カレにも、ガツンと言ったらどうだ?」
「……え?」
驚きのあまり目を見開くと、翔は言う。
「処分を下すのが、斎藤さんだけのはずがないだろう? 葛西さんの元カレも、もちろん同じ処遇を下すつもりだ」
「……」
「処分が下る前に、言いたいことはすべて言ってしまえばいい。俺が、ずっと側に居るから」
ちゃんと言わなきゃダメだ。
このまま、逃げ続けるのは絶対にダメだ。
すると、彩絵は力なく栗花落を見つめた。
「私、彩絵ちゃんのこと、一生許さないから!」
「……」
きっと、これが正しい。
今の彼女には、優しい言葉なんて必要ない。
「私、彩絵ちゃんのこと大嫌いだし、他部署に異動って聞いてスカッとした。もう顔合わせなくていいんだって、安心したよ!」
ようやく、彩絵と本音で話す勇気が持てた。
だから、一番大切なことを言おう。
「……だからさ、彩絵ちゃん。もう、恨みっこなしだよ?」
「……先輩」
彩絵は呟く。
栗花落は続けた。
「私たち、もうお互いのこと、全部忘れよう。それがいいよ。彩絵ちゃんはもう、私のことを憎まなくていい。嫌な思いなんてしなくていい。私も、彩絵ちゃんのことは全部忘れるから。勝のことも、全部忘れる。ね? それがいいよ」
すると、彩絵は納得のいかない顔をする。
「……なんて、都合のいい言葉」
それから、彩絵はキッと眉を吊り上げて、叫んだ。
「私のこと、大嫌いなくせに!」
「そうだよ! 大嫌いだって、さっき言ったじゃん!!」
今、言葉にしていることは全て真実だ。
もう、周りの事情なんて気にしない。
これが──最後だから。
「全部忘れるなんて、都合がいい! そんなことするわけない!」
「それでも、全部忘れるから! 私! 自分が不幸だった時間を思い出すよりも、幸せだった時間を大切にする方が好きなの!」
これからは、もっと真剣に翔と向き合う。
今度こそ、対話を重ねて、お互いのことを思い合った関係を築いてみせる。
勝の時と、同じ轍は踏まない。
「……っ。あっそ!」
観念したように、彩絵は吐き捨てる。
「分かりました。もう、どこへなりとも異動します! 窓際部署、大歓迎ですよ! どうでもいい!」
続けて、彩絵は投げやりに叫んだ。
「もう、会社も辞めようかな! 惨めな思いするだけですよね!」
「「……」」
その時、しばらくの沈黙が流れる。
やがて、翔が口を開いた。
「この状況でそれを言っても、誰も引き止めてくれないぞ?」
すると、彩絵は途端に泣きそうに顔を歪めた。
「……っ。知ってますよ! そんなの!」
その姿は、見ていて可哀想な気もするくらい、幼く見えた。
きっと、彩絵はこれから色んな苦労をしていくことになるだろう。
勝と関係を持ったことを、後悔する日も来るかもしれない。
「自分がしたことを悔い改めるんだな。俺は君に、一切の同情はしない」
その時、彩絵は初めて、一筋の涙を頬にこぼした。
「はいはい! そうですね! 私が悪かったです! はぁ~~!」
彩絵はそれだけ言って、手の甲で涙を拭いながら、スタスタと廊下を歩き去っていく。
(これで全部、終わったのね。勝とのことも、多少は蹴りがついたのかも)
取り残された栗花落と翔は、互いの顔を見合わせて、栗花落が先にお礼を述べる。
「ありがとうございます。社長」
「……いや。葛西さんこそ、大変だったな」
栗花落は静かに首を横に振る。
「社長が助けに入ってくれたから、なんとかこの場を収めることができました。私一人では、絶対に彩絵ちゃんに言い負かされていたと思います。ありがとございます」
「……だといいんだが」
翔には、いつも助けられてばかりだ。
本当に助けが欲しい時、翔はいつも隣に居てくれる。
それがどれだけ心強いことか、彩絵は翔に出会って初めて知った。
「この際だ。元カレにも、ガツンと言ったらどうだ?」
「……え?」
驚きのあまり目を見開くと、翔は言う。
「処分を下すのが、斎藤さんだけのはずがないだろう? 葛西さんの元カレも、もちろん同じ処遇を下すつもりだ」
「……」
「処分が下る前に、言いたいことはすべて言ってしまえばいい。俺が、ずっと側に居るから」