「あのねぇ! 彩絵ちゃん、自分がどれだけ最低なことしてるかって、自覚ある??」

自分のことを教育してくれる人の彼氏を寝取って、『嫌い』と一方的に暴言を吐く。
そんなことが、人として許されていいはずがない!

「私が最低? 違いますよ! 先輩が最低なんです!」
「だから、なんで私が最低だと思うの!?」

すると、ふー、ふーと息を吐きながら、彩絵は怒った様子で両腕を組む。

「私がこの会社に入社した時、高塚(こうづか)さんと陰で言ってましたよね? 『私、あの子の教育係なんて自信ないです』って。それって、私がツインテールで、仕事できなさそうに見えたから、面倒な後輩ができたって思ったからですよね??」

なに、それ……。
この子は、何を言っているの……?

「違う! 私はただ、新卒の子の教育係なんて初めてだから、自信がないって話してただけ!」

「嘘つき!! 私のこと使えない女だって容姿で決めつけて、馬鹿にしてたんでしょ?? 私、こんな人が教育係なんて超外れじゃん! って、ずっと思ってました!」

「違う……! 全部勘違いだよ! 私は彩絵ちゃんのこと、本当に良い後輩だと思ってた! 仕事もできるし、なんでも素直に受け止めてくれるし、改善してって言ったことはちゃんと改善してくれて……!」

「嘘!! 私のこと、容姿で馬鹿にする最低な先輩なんですよ!! 私、人を見た目で判断する人、大嫌いなんです!! だから、先輩だけは絶対に幸せになってほしくないって、ずっと思ってたんですから!!」

全部、なにもかも、彩絵の勘違いだ。
栗花落はただ、新卒の教育係なんて大役を任されることを、少しプレッシャーに感じていただけだ。
新卒社員は会社を辞めやすい。
だが、すぐに辞めれば、その責任は当然のことながら、先輩である自分に向く。

彩絵にとって居心地の良い環境を作ることが、教育係としての最大の責務だ。
けれど、そんな大役を自分一人でこなすことに、ずっと自信が持てなかった。

だから、栗花落にとっての先輩に、自信がないと本音を打ち明けただけのこと。
彩絵のことを容姿で馬鹿にした覚えは一切ないし、それはまったくの勘違いだ。