翔と居ると、自然と彼の口車にのせられてしまう。
彼は言葉の運び方が上手だ。女性が喜ぶ言葉を知っているし、こちらが不快になるような発言は一切しない。
(まぁ、そんなところが、居心地良くて好きだけど……)
「さ、行こう。席も予約してあるんだ。映画も種類が選べるから、きっと飽きないよ」
「うんっ」
翔に手を引かれて、栗花落は品川駅の前にある大きな交差点を渡り、左に曲がって歩いていく。
この辺りには変わったレストランがたくさんあり、どこも盛況だ。
海外需要のレストランも多く、方々から外国語が聞こえてくる。
「あ。ここだ」
翔が立ち止まったのは、白い外観の一軒家だ。
入口の前には映画cafeと書かれていて、入口はガラス張りで開放感がある。
「予約している蓬田です」
入店してすぐに、翔が予約画面を見せると、店員は店内の奥まで二人を誘導してくれた。
「こちらの部屋になります。個室は三時間制となっております。DVDは部屋を出てすぐの場所にありますので、ご自由に選んでご鑑賞ください」
映画の邪魔をしないためか、食事は既にテーブルに用意されている。
キャラメルポップコーン、フライドポテトなどの軽食や、ホットドック、フライドチキンなどの肉類、その横にはフィッシュアンドチップスもある。
部屋を出てすぐのところにドリンクバーも用意され、おかわりは自由のようだ。
部屋全体は七畳ほどの広さで、スクリーンの前にはガラステーブルと、黒革のソファが置かれている。
二人で映画を観る場所としては、十分過ぎる広さとアメニティだ。
おそらく、この店内で一番広い部屋なのだろう。
「なんの映画が観たい?」
翔の質問に、栗花落は答える。
「恋愛ものがいいな」
「恋愛か。それなら、これはどうだ?」
それは、去年日本で流行したアニメ映画だ。
好きになった男性を追いかけていくうちに、事件に巻き込まれていく、青春とバトルが織り交ざった内容の映画だったと記憶している。
だが、栗花落は一度も鑑賞したことがない。
「いいですね! それにしましょう?」
二人はコーラをコップに注いで、個室で映画鑑賞の準備をする。
再生ボタンを押すと、部屋の目の前にある大画面の液晶が光り、部屋に完備された音響が映画館さながらの臨場感を出して映画を流し始めた。
「はぁっ。はぁっ。はぁっ」
女の子が自転車を漕いでいる姿から、映画は始まる。
(綺麗な絵……。見てるだけでも、物語に引き込まれる……)
栗花落が真剣に映画を観ていると、翔はその隣で栗花落の顔をじっと見つめている。
その視線が次第に気になり始め、栗花落はゆっくりと顔を横に動かした。
「翔……さん。映画、観なきゃ」
「俺は、映画に夢中になる栗花落が見たいから」
「っ」
そんな理由で、このお店を予約したのだろうか。
つくづく、彼の一挙手一投足に翻弄される自分がいる。
「あ、後で抜き打ちで、映画の内容のテストしますよっ?」
「俺は器用だから、栗花落を見ながらでも映画の内容が頭に入ってくるからな」
「そんなこと言って……あ、物語が動き始めますよ!」
好きになった男が、魔法によって封印されてしまう。
その封印を解くため、女の子は奮闘していき……。
「翔さんっ。映画っ」
「大丈夫。ちゃんと観てるから」
翔は栗花落を隣で見ているだけでは足りなくなったのか、徐々に身体を寄せると、栗花落の太ももと腰をひょいと持ち上げて、お姫様だっこをする。
それからソファに腰を落とすと、栗花落を自身の膝の上に置いて、背後から強く抱きしめた。
「うん。この体勢がいい」
「ちょっ、と……恥ずかしいから」
「誰も見てない。ここは映画館じゃなくて個室だから」
「でも……」
「栗花落は映画に集中して? 俺は栗花落に集中するから」
意味の分からないことを言い、翔は栗花落の耳の裏に顔を寄せる。
「栗花落の匂い……落ち着くな」
「か、嗅がないで!」
「良い匂いだよ。まるでお花畑にいるみたい」
翔は両手をぎゅっと栗花落の腹部に回すと、栗花落が逃げないようホールドする。
そして首筋に顔を寄せて、ふうっ……っと息を吐くと、そっと瞳を閉じた。
「栗花落。……大好き」
不意にかけられた言葉に、身体が硬直する。
『大好き』。
付き合っている恋人に言うのさえ、恥ずかしくて抵抗のある言葉を、翔はさらりと言ってのける。
そして……そういうところが、彼の好きなところだ。
(どうして、大切な言葉を、相手が欲しい時に言えるの?)
彼は言葉の運び方が上手だ。女性が喜ぶ言葉を知っているし、こちらが不快になるような発言は一切しない。
(まぁ、そんなところが、居心地良くて好きだけど……)
「さ、行こう。席も予約してあるんだ。映画も種類が選べるから、きっと飽きないよ」
「うんっ」
翔に手を引かれて、栗花落は品川駅の前にある大きな交差点を渡り、左に曲がって歩いていく。
この辺りには変わったレストランがたくさんあり、どこも盛況だ。
海外需要のレストランも多く、方々から外国語が聞こえてくる。
「あ。ここだ」
翔が立ち止まったのは、白い外観の一軒家だ。
入口の前には映画cafeと書かれていて、入口はガラス張りで開放感がある。
「予約している蓬田です」
入店してすぐに、翔が予約画面を見せると、店員は店内の奥まで二人を誘導してくれた。
「こちらの部屋になります。個室は三時間制となっております。DVDは部屋を出てすぐの場所にありますので、ご自由に選んでご鑑賞ください」
映画の邪魔をしないためか、食事は既にテーブルに用意されている。
キャラメルポップコーン、フライドポテトなどの軽食や、ホットドック、フライドチキンなどの肉類、その横にはフィッシュアンドチップスもある。
部屋を出てすぐのところにドリンクバーも用意され、おかわりは自由のようだ。
部屋全体は七畳ほどの広さで、スクリーンの前にはガラステーブルと、黒革のソファが置かれている。
二人で映画を観る場所としては、十分過ぎる広さとアメニティだ。
おそらく、この店内で一番広い部屋なのだろう。
「なんの映画が観たい?」
翔の質問に、栗花落は答える。
「恋愛ものがいいな」
「恋愛か。それなら、これはどうだ?」
それは、去年日本で流行したアニメ映画だ。
好きになった男性を追いかけていくうちに、事件に巻き込まれていく、青春とバトルが織り交ざった内容の映画だったと記憶している。
だが、栗花落は一度も鑑賞したことがない。
「いいですね! それにしましょう?」
二人はコーラをコップに注いで、個室で映画鑑賞の準備をする。
再生ボタンを押すと、部屋の目の前にある大画面の液晶が光り、部屋に完備された音響が映画館さながらの臨場感を出して映画を流し始めた。
「はぁっ。はぁっ。はぁっ」
女の子が自転車を漕いでいる姿から、映画は始まる。
(綺麗な絵……。見てるだけでも、物語に引き込まれる……)
栗花落が真剣に映画を観ていると、翔はその隣で栗花落の顔をじっと見つめている。
その視線が次第に気になり始め、栗花落はゆっくりと顔を横に動かした。
「翔……さん。映画、観なきゃ」
「俺は、映画に夢中になる栗花落が見たいから」
「っ」
そんな理由で、このお店を予約したのだろうか。
つくづく、彼の一挙手一投足に翻弄される自分がいる。
「あ、後で抜き打ちで、映画の内容のテストしますよっ?」
「俺は器用だから、栗花落を見ながらでも映画の内容が頭に入ってくるからな」
「そんなこと言って……あ、物語が動き始めますよ!」
好きになった男が、魔法によって封印されてしまう。
その封印を解くため、女の子は奮闘していき……。
「翔さんっ。映画っ」
「大丈夫。ちゃんと観てるから」
翔は栗花落を隣で見ているだけでは足りなくなったのか、徐々に身体を寄せると、栗花落の太ももと腰をひょいと持ち上げて、お姫様だっこをする。
それからソファに腰を落とすと、栗花落を自身の膝の上に置いて、背後から強く抱きしめた。
「うん。この体勢がいい」
「ちょっ、と……恥ずかしいから」
「誰も見てない。ここは映画館じゃなくて個室だから」
「でも……」
「栗花落は映画に集中して? 俺は栗花落に集中するから」
意味の分からないことを言い、翔は栗花落の耳の裏に顔を寄せる。
「栗花落の匂い……落ち着くな」
「か、嗅がないで!」
「良い匂いだよ。まるでお花畑にいるみたい」
翔は両手をぎゅっと栗花落の腹部に回すと、栗花落が逃げないようホールドする。
そして首筋に顔を寄せて、ふうっ……っと息を吐くと、そっと瞳を閉じた。
「栗花落。……大好き」
不意にかけられた言葉に、身体が硬直する。
『大好き』。
付き合っている恋人に言うのさえ、恥ずかしくて抵抗のある言葉を、翔はさらりと言ってのける。
そして……そういうところが、彼の好きなところだ。
(どうして、大切な言葉を、相手が欲しい時に言えるの?)