自分を好きになってくれた理由が、ちゃんと自分のことを見てくれていたからというのが、堪らなく嬉しかった。
それだけで、自分の生き方は間違っていなかったと、自分を肯定できるような気がしたから。

「栗花落は、俺のこと……好き?」

その質問に、栗花落は目を見開いた。

(どう、だろう……。す、すきって……)

今まで、翔のことは会社の社長としてしか見てこなかった。
恋愛対象にするには立場が違いすぎるし、雲の上の人だと思っていたからだ。

でも、今、目の前にいる彼は、栗花落に真っすぐに想いを伝えてくれている。
(その想いに、応えたい……)

失恋して、後輩になじられ、侮辱された。
……いや。今、そんなのは関係がない。

「もっと……社長のことが、知りたいです」

それが、今の正直な気持ちだ。

知りたい。
こんなにも自分を大切に想ってくれる彼のこと、もっと――。

翔はそっと笑みを浮かべると、小さくガッツポーズをする。

「やった。栗花落に、知りたいって思ってもらえた」

翔は嬉しそうに天を仰いで、それから栗花落を見て笑う。

「それなら、デートしてくれ。栗花落」

さらりと出てきたワードに、栗花落は硬直する。

「で、デート!?」

「……だって、知りたいんだろう?」

そう。今は、翔のことが少しでも知りたい。
だが……。

「心の準備が……」
「そんなの要らない」

翔は栗花落を背後から抱きしめて、その頬を栗花落に寄せた。

「栗花落が俺に惚れるような、最高なデートをしてみせる」

そんなキザな台詞とともに、翔は右手を自然と栗花落の右手に重ねて、囁く。

「もう他の男のことなんて、一生思い出せないくらいの思い出を作るから」

「……」

恥ずかしくて、声が出なかった。
コクリと、小さく栗花落は頷く。
それを見た翔は、栗花落から離れてソファから立ち上がった。