「ジタバタすんなよ。怪我人は、大人しくしてろ」

「う……」


私は恥ずかしさのあまり、顔を伏せてしまった。


彫刻のようにきれいな顔が、すぐそばにあって。

陽向との近すぎる距離に、ドキドキと胸が尋常じゃないくらいに高鳴る。


「すいません。俺、こいつを保健室まで連れて行くので。ちょっと抜けます」


顧問の先生に声をかけると、陽向は私を抱きあげたまま歩き始める。


「ごめんね、陽向。迷惑かけて」

「別に。迷惑だなんて思ってねえよ。星奈は、今はその怪我を治すことだけを考えてたら良い」

「ありがとう……」

「……大事な幼なじみに、もし傷痕が残ったりしたら大変だからな。よし、急ぐぞ」


陽向の歩く速度がわずかに上がる。


かすり傷程度だろうに。陽向ってば、大袈裟だなって思ってしまうけど。

私のことを気にしてくれる陽向の優しさが、嬉しくて。私は、頬がゆるんでしまう。


それに陽向、いま私のこと『大事な幼なじみ』って言ってくれた。


陽向は私に対して、恋愛の意味での『好き』っていう気持ちはないのかもしれないけど。


それでも私はやっぱり……陽向のことが好きだ。