「俺の後ろに乗れって……」


陽向がこちらに黒のヘルメットを投げてきて、それを私はキャッチする。


「ここから15分歩いて帰ったら、帰りがもっと遅くなるだろ?」

「でも、自転車の二人乗りは禁止されてるんじゃ?」


そう言うと、陽向にキツく睨まれてしまった。


ひぃ〜っ。イケメンの陽向でも、睨まれたらやっぱり怖い。


「ほら、星奈。はやく」


ルールを破るのは、良くないけど。


陽向が、良かれと思って言ってくれてるんだもん。

せっかくの陽向の好意を、無駄にしたらダメだよね。


私は慌てて、陽向の自転車の後ろに乗る。


「星奈、俺の腰に手をまわして」

「え?」

「こうだよ」


すると陽向が私の手をつかんで、自分の腰にまわした。


きゃーっ。す、すごい密着!


これじゃあまるで、私が陽向を後ろから抱きしめてるみたい。


「いいか? しっかりつかまってろよ」

「うんっ」


私が返事すると、自転車はゆっくりと動き出した。


そしてこのあと私は、家の前で私の帰りを待っていたお母さんに、帰りが遅くなったことと、陽向と自転車を二人乗りしたことについて、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。