赤子の名前は『誠』(まこと)に決まり、母乳を良く飲み、元気ですくすくと育つ。

生まれて半年経ち首も座り、今日も可愛い笑顔を振りまいて、女中達を虜にしている。

司も良き父になろうと、時間が許す限り誠との時間を大切にしてくれて、絵に描いたような幸せな家族だと莉子自身思うほど、毎日幸せに満ちている。


「まこちゃん、お腹が空いたかな?」
先程から泣き止まない誠を抱え、莉子は隣の部屋と行く。

母乳を与える為の部屋を司が急きょ作ってくれた。

その六畳ほどの部屋は、寒くないようにこたつが置かれ、その側にある暖炉には、いつだって薪が焚べ続けられている。

こたつに足を暖めながら、莉子は誠に母乳を与える。

生まれた当初は母乳が思うよに出ず、このままではいけないと心配したが、今では溢れ出し誠が溺れてしまいそうになるほどだ。

そして…お腹がいっぱいになると、大抵2時間ほどは寝てくれる。

誠を、側に置いてある布団に寝かすと、莉子もホッとして眠くなってくる。
ちょっとだけ横になろうと、誠の横にこてんと転がり目を閉じる。

どのくらい寝ただろうか…気が付いて目を開けると…

わっ!と目の前に司の顔が…
着流し姿の司が肩肘を枕にして、同じように横になって、思わぬ近さで目が合う。

莉子は目を見開き、夢ではないかとぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「おはよう。よく眠れたか?」
満面の笑みで話しかけられて、本物なんだと実感する。

「…おはよう、ございます…。」
まだ、ぼぉーっとする頭で返事をするけど、辺りが暗くなっている事に気付く。

「…あれ?まこちゃんは!?」
ハッと目が一気に覚めて、起きあがろうとする。

「誠は千代が見てくれている。よく眠っていたからしばらく起きないだろう。」
ホッとした莉子を司は抱きしめ、また布団の上…。

「あの…夕飯の準備を…。」

莉子の言葉を遮るように、
「亜子が全部済ませて帰ってくれた。もう食べるばかりだそうだ。」

そう司が言うから、それなら大丈夫かと莉子はやっと微笑みを浮かべ、
「…お帰りなさいませ。」
と、司に言う。

「ただいま。」

「今夜は早かったのですね。」

「嬉しいか?」
と、司が聞いてくるから、

「もちろん嬉しいです。」
と、莉子が答える。