そしていよいよ、神前式本番。

巫女が3人、雅楽の音楽に合わせて踊る中、司と莉子は前方へと足を運ぶ。

それはそれは美しく、まるで舞台に立つ俳優のように、光輝き2人だけが別世界にいるように見えるほどだった。

誓杯の儀(せいはいのぎ)神楽奉納(かぐらほうのう)誓詞奏上(せいしそうじょう)を経て滞りなく式は進む。

玉串奉奠(たまぐしほうてん)に親族杯の儀(しんぞくはいのぎ)も終わり、斎主の挨拶と続き式は終わる。

2人が退席する後ろ姿を親族達は満足した目で見送っていた。

その中で、ただ1人昌子だけが睨みをきかせ、2人の後ろ姿を見ていた。

実は、昌子は子供の頃から莉子の事を知っていた。

いつだって彼女のいる所は華やかで、その笑顔で周りを明るくしていた。誰からも好かれ愛されていた…。

なぜ彼女ばかりがチヤホヤされるのだろうかと、ずっと面白くなかったのだ。そんな彼女が没落して、いい気味だと思っていたくらいだったのだから…。

それなのに…憧れだった司の横に彼女がいる。

司お兄様に1番ふさわしいのはこの私なのに、2年前に結婚した時でさえ思い続けていたのだから、結婚が上手くいく訳がなかったのだ。

今日は今までの全てを兼ねて、必ず痛い目を見てもらうと並々ならぬ思いを胸に参列した。


一方何も知らず、控え室に戻った莉子はホッと緊張を解く。

重く肩にのしかかっていた白無垢を1枚1枚脱いでいくと、やっと気持ちも軽くなり、後は食事会だけだと、長襦袢姿のままソファにもたれかかり少しの間目を閉じる。

「理子様、お疲れ様でございました。少し何が召し上がりませんか?」

そう言う女中の手元を見ると、お皿に5つほど小さな酒饅頭が並べられていた。

「旦那様からの差し入れでございます。どうぞおひとつお召し上がり下さいませ。」

こんな日でさえ彼は私の事を思い、甘い物を差し入れてくれる。なんて思いやり深い優しい人なんだと莉子は思いながら、有りがたく酒饅頭を一つ口に入れる。

ああ…私お腹が空いていたんだわ…。

朝から極度の緊張で何も喉を通らなかったから、お腹の赤ちゃんもお腹を空かせていたのかしらと、心配になってくる。

もう一つ摘んで口に入れる。

悪阻で気持ち悪く吐き気があった時でさえ、甘いものは不思議と食べられた。きっと朝からあまり食べていなかった私を心配してくれたんだと、彼の優しさが身に染みた。

この日の為に選んだ着物は赤に金糸の鶴が空に舞い上がる風情を刺繍された素晴らしいもので、これは紀伊國屋に麻里子が、何度も足を運び選んでくれたものだった。

莉子はその頃悪阻ひどくて全く動けず、全てを麻里子に頼み託した。

さすが彼女だと、ため息が出るほど素晴らしく豪華な着物を選び抜いてくれた。

こちらも3枚ほどは重ねるけれど、先程よりも動きやすく重さもさほど感じないから、後少しなんとか乗り切れそうだと気合いを入れ直す。