『そうですね。少し距離を置いた方が良さそうですね…寂しいですが、これから長い付き合いになるのであれば、このくらいの我慢はしなければなりませんね。』

分かりやすく沈んでしまったブライアンが、とても可哀想に見える。司は彼の肩をトントンと優しく叩き慰める。

「あっ…家が見えて来ました。」
ブライアンが気を取り直したように、そっと外を指差す。

「…凄い、ですね…。大豪邸…。」
莉子がすぐさま反応し、指差す方を見て驚いている。

司もおもむろにそれを見て、これは…と息を止める。

昔からの建物らしく重厚な門構えをくぐると、石畳が続く広い邸内を、ゆっくりと馬車は行く。

「この邸宅は何年続いている?」
司がおもむろに聞く。

「100年以上は経つはずです。祖父から譲り受けたのですが、子供の頃はお化け屋敷かって思うほど怖かったんですけどね。」

ブライアンは亜子が起きないようにそっと話す。

「これは凄いな…。世が世なら城だな。歴史の1ページを見てるみたいだ。」
呟くように正利が言う。


玄関に到着すると、執事が何処からともなく現れて、挨拶をしてそれぞれの荷物を運び出してくれる。

石で作られた重厚な室内は昔の洋館と言う風情で、床には赤い絨毯が敷かれ、至る所に洋画や甲冑などが飾られているから、少し怖くて莉子は司の袖を掴みながら歩く。

それぞれの部屋に入り、莉子はやっとホッと息を付く。

「大丈夫か、疲れただろう?
夕飯までまだ時間がある。少し横になった方がいい。」
司は莉子の足元に腰を下ろし、ブーツの紐を優しく解いてくれる。

「だ、大丈夫です…。シャ、シャワー先に浴びますか?」

今朝からずっと履き続けたブーツだから、流石に匂いとか気になり慌てて止めて、パタパタと執事が運んでくれたトランクへと向かう。

「莉子が先に入ればいい。出来ればお湯を溜めて温まるべきだ。」
司は莉子から逃げられてちょっとバツが悪いのか、苦笑いしながら風呂場へとお湯を沸かしに足を向ける。

広々とした空間に、バスタブとトイレ、洗面台が転々と付いている。

床は石張りでひんやりとしている。
それだけで日本との違いを見せつけられるが、何よりも2つの蛇口からお湯と水が出てくるから、西洋の文化は日本の何十年何百年も先を行っているとため息が出るくらいだ。

莉子を先に風呂に入るように促す。

「旦那様より先に入るなんてバチが当たります。」
そう言って何度も莉子が遠慮するから、

「ここはイギリスだからレディファーストが当たり前なんだ。郷に入れば剛に従えだろ?」
そう言って、やっと先に入ってもらう事に成功する。

広いソファに座れば、司とて少し疲れたなと思い、ごろりとソファに転がり天を仰ぐ。