「待って下さい!」

亜子は金髪の英国紳士を見つけて声をかける。

男はその声を無視して足早に去って行く。

亜子は負けずにスカートの裾を持ち上げ、全速力で走って男の前に踊り出て両手を広げて、

「逃げるなんて卑怯者です!」
と、男の動きを静止する。

男は観念したのか足を止め、亜子と向かい合う形になる。

「あっ…貴方は…⁉︎」
亜子は顔を見た途端に驚く。

亜子はこの男を知っていた…。
「…ブライアンさん?」

そう、ブライアンを亜子は知っていたのだ。
花街で何度か通いの常連だったから…。だけど肌を合わすまでには行かず、その後直ぐに身請けされたから、2度と会う事はないと思っていた。

「旭…。」
そう、ブライアンは亜子を追って、ここまで来たのだった…。

身請け話しを聞き長谷川司の事を突き止め、良くない噂を告げ口したのは、他でもないブライアンだった。

とても優しい紳士だったのに何故?

「何故、貴女が姉を傷付けるような暴言を吐いたのですか?」

「僕は貴女に忠告したのに…長谷川司は傍若無人な冷酷な男だって…。それを証拠に貴女を妾にしたのに、本妻ばかりを大事にしている。」

「違います!
司様はあくまでも姉の旦那様です。決してやましい関係ではありません。」

「姉…⁈」
ブライアンは驚いた顔をしている。

「そうです。長谷川莉子は私の姉です。私を身請けして下さったのは、姉の為です。」

「そう…なのか…。」 

「なぜ、貴方が姉や司様を傷つけるような事を言ったのですか?」