男はさっそく耀に食って掛かる。

「彼女は俺の連れだ。放してくれないか」

 きっちりとスーツに身を包んだ耀は男から視線をそらさず一歩近づくと男の手首を掴み結乃から外させる。流れるような動作には一切無駄が無い上、抗えない迫力もあった。男もされるがままだった。
 
 解放された結乃は慌てて男から距離をとる。
 
「酔っぱらって女性に絡むのはみっともない。やめたほうがいい」

「っ、なんだよ! 男がいるのに誘ってるんじゃねぇよ」

 隙のない耀の様子に歯が立たないと思ったのか、男は慌てたように結乃に理不尽な捨て台詞を残し、よろよろとその場を立ち去っていった。

 喧騒の中、耀とふたり取り残される。

(すごい。落ち着き払ったままけっこう体格のいい相手をあっというまに退散させた……でも)

 酔っ払いから助けてくれたことは非常にありがたいが、それが結乃の中で今一番気まずい人ランキング堂々一位のこの人という状況に正直困惑してしまう。

「あの……」

「怪我はしていないか?」

 耀はこちらを窺うようにたずねてきた。

「お、おかげさまで……。宇賀地さん。助けていただきありがとうございました」