想定とだいぶ違う会話の内容の虚しさに結乃は目を細めて遠くを見やる。

 すると目の前で冷たい声が聞こえた。

「君は代役になること自体、考えが甘いとは思わなかったのか」

「えっ」

 我に返った結乃は思わず視線を目の前に戻す。

「将来の”社長夫人”という肩書に惹かれて深く考えもせず代役を受けたんだろうが、今の世の中、家柄だけでやっていけるほど甘くないことを知った方がいい」

 彼のこちらをみる表情には明らかに冷たく蔑みの色が滲んでいた。

「君も逃げた従姉妹同様甘やかされて育った世間知らずだから仕方ないのかもしれないが」

「なっ……」

(な、なにこの人、さっきまですましてたのに。イケメンのお金持ちだからって何言ってもいいって思ってるの!?)

 耀の失礼な物言いに一瞬息を呑んだ結乃の感情は、一気に怒りに支配された。

 たしかに深く考えていなかったことは認める。

 だとしても初めて会った見合い相手にこんな風に言われる筋合いはない。

 結乃はここまで辛うじて被っていた猫を脱ぎ捨て心の中で思い切り足元に叩きつけた。
 そして斜め上にある耀の顔を見据えて口を開いた。