リビングテーブルの上にはノートパソコンと書類が出ている。
 いつの間にか書斎からこちらに移ってここで仕事をしていたから結乃の様子に気付いたのだろう。

「指を出して」

「え、あ、はい……」
 彼は傷口を見ながら絆創膏を貼る。それはそれは丁寧に。

「ありがとうございます」

「気分は悪くないか?」

「へ? そんな大げさな……」

「血を見て倒れたりすることもある」

「いやいや、私そんな繊細キャラじゃないですから」
 
 大丈夫ということをアピールしようと手をヒラヒラと動かすが、彼は動かしてはいけないとばかり、結乃の手を握って膝に置く。

「やっぱり夕食は俺が作る。また怪我でもされたら困る」

「でも……」
 
 八歳も年上の大人の彼に手を握りながら端的に言い聞かせられると反発できなくなってしまう。
 
 彼は立ち上がると結乃の頭を優しく撫でてから颯爽とキッチンに向かってしまった。
 
 大事にしてもらうのは慣れない。それに、最近この人との関係がわからなくなっている。

(関係としては”夫婦”であってるんだけど……)