緋古那さんには申し訳ないけれど、もう私は、あの花街へと行くことはない。


前回行ったときに緋古那さんから貰ってしまったお金は、一銭も使わずに取っておくつもりだ。

機会が訪れたら必ず返すと誓って。


あんなにも苦しくてせつない思いをするのは、もういやだ。



「………うそ、だ」



しかし、届いた1通の手紙。

差出人は“緋古那”と達筆な文字で書かれていて、封を開けてから気持ちが揺れ動いてしまったことが悔しい。



水月がきみに会いたいと言っている───だなんて。



いかない、嘘だ。

あんなものを見せておいて私に会いたいだなんて、こんなこと言いたくはないけれどふざけている。


私を侮辱するなと、言ってしまいたい。



「…来てくれてありがとう、ウル」



“大海屋”と書かれた看板が立てられた、ひとつ。

もうしばらくすれば私は通人になってしまいそうだと、怖くもなった。


結局のところ来てしまった私に、緋古那さんはふんわりと微笑む。