「…こうして抱きしめたくてたまらなかった。ずっと、俺はおまえのことしか」


「あちきもでありんす…っ」



私があなたに会いたいと願っていた気持ちも同じだと言いたい。

あなたはそうは思わなくとも、同じなんです。


私もそれくらい、会いたかったの。


こんなにも胸が痛くて苦しいことが、この世にはあるんだ。



『水月はね、あいつはただひとりの女だけをずっと……愛しているから』


『彼にはそれほどまでに会いたい子がいたんだろう』



私じゃない。
彼女だ、彼女以外はいない。

あれを見てしまえば、答えだ。


私が水月さんに感じていた親近感は、誰かのことを一途に想いつづけていることに対する親近感だったのだと。


そして「須磨」という名前をした女郎を「鷹」と呼んでしまいそうになった私は、まだ酒の酔いが醒めていないらしい。



「………緋古那…さん…」



涙をこぼさないように見上げた宿屋の2階、飛べない蝶が見えた。

その蝶だけは、私のことをやさしく見つめてくれていた。