「2度とそんなことを軽々しく言うな。とくに緋古那の前で同じことを口走りでもしたら………俺がおまえを殺す」



ほら、突き放される。


起きろ、着物を着ろ、帰る支度をしろ。

前回とは比べ物にならない冷たさで、緋古那さんが恋しくなってしまったほど。



「───水月……っ」


「……須磨(すま)…?っ、須磨……!!」



とんっと、私の背中が大門から押し出されたときだった。

入れ違うように走ってきた女性が、下駄につまずいて転びそうなところを気づいた男に支えられる。


そして、ふたりは強く強く抱きしめ合っていた。



「…どうして、」


「二階番たちの目をっ、盗んできたでありんす…っ、会いとうござりんした……っ」


「…俺も…、俺もだ…、須磨」



麗しさに腰が引けそうだった。

女性は地味な着物を着ているものの、それはきっと郭(くるわ)を抜け出すための変装でしかないと、すぐに察しがつく。


長い髪も、整った爪も、花のような香りも、私には何ひとつとして持っていないものだ。