「俺の見世は客が珍しいぶん、上等な振袖新造を揃えていたりするんだ」



振袖新造とは、将来が有望とされている15、16歳の禿のこと。

今も華やかな舞で場を盛り上げてくれている。


それだったなら彼らのためにもたくさんの御披露目の機会を作ってあげるのが太夫の役目なのでは。


この意見だけは庶民の私に誰もが指示してくれるような気がして、ふふっと独りでに笑う。



「楽しいかい?」


「…はい。緋古那さんのこと、考えてました」


「………それは殺し文句かな」


「えっ、こっ、殺してないです…!文句でもなくてっ」



すこし遅れて「はははっ」と、豪快かつ上品に笑った彼は、私のそばに自ら寄ってくる。


そういえば言葉ひとつで吸い寄せてしまうのが水月さんだった。

反対に緋古那さんは「また可愛いことを」と言いながら、私が緊張しない程度の適度な加減で腰に腕を回してくれる。