小判ではなく、初めて見て、初めて手にする大判が1枚。

ありえもしない大金に、くらりと脳が揺れそうになった。


この人の言葉には疑いから入ったほうがいいと、誰かからも言われていた。


なにを考えているか見当もつかない。

そんな私に、決定打のような脅しとも言える弱みが首を動かせてくる。



「…そうすれば水月と話せる機会も増えるだろうしね」



このお金があれば少し特殊な形態で身を置く緋古那さんを指名することも、運が良ければ花魁と顔を合わせることくらいはできると。


逆にここまでのお金がなければ好きに遊べはしない場所が───吉原。


桁違いだ、なにもかもが。



「いらっしゃい。待っていたよ」



そして見世の顔で出迎えてくれた夜。

緋古那さんが構える見世───“大海(ひろみ)屋”だけ帳(とばり)がおろされている理由は、そこもまた女に素通りして欲しいからなのだと。


彼に貰った着物をまとい、渡された大判を持って、私は裏吉原の大門を潜った。