私にとっては初めてのことで一喜一憂しては胸を高鳴らせていたけれど、いま思うと位(くらい)の違いがなんとも憐れだ。



「何度も言うが、ここはおまえが来る場所ではないぞ」


「……はい」



どうせお金がないから、再び足を踏み入れることは叶わない。

来たくとも来られない。


新しい着物を与えられたところで、結局は見合った生活にはなれないのだ。


緋古那さんとはまた違った女性らしさを持ちつつも男性でしかない身体を直視できないふりをして、私は涙を拭った。



「お薬…、水月さんが持ってきてくれたって、緋古那さんから聞きました。ありがとう…ございました」



ごめんなさい、緋古那さん。

会話欲しさに秘密を破ってしまいました。



「…あいつに用意しろと言われたからな」


「あいつ…?」


「緋古那だ。俺に命令できる人間など、あいつしかいない」



彼も彼で昨夜と言っていることが正反対だ。

昨日は「自分は誰からの指図を受ける身ではない」と、堂々と言っていたような気がするけれど…。