そんな私と昨夜はひとときの時間を過ごしてくれただけでも奇跡みたいなものだ。



「す、すみません…」



すぐ上がりますのでと伝え、何度も頭を下げながら湯槽に浸かる。


不思議なひとだと思う。

花魁という最高位に君臨しているはずが、彼にはどこか親近感も湧く。


けれどその親近感に甘えていたら、すぐに突き放されて現実を与えられてしまうのだ。



「もう少し早くに帰すべきだった」


「……はやくって、」


「俺と戯れているときも、なんとなく身体が火照っていたからな」



気づいてくれていたとは。

自分でもそこまで気づけなかった身体の調子を、外側から触れただけの彼が。


それに、あれを“戯れ”と言ってくれた優しさに視界が歪んだ。


戯れてなんかいない。

花魁であるあなたに身体を寄せて、ただ暇をつぶすように相手にしてもらっただけ。