「これでも気に入ってるんだ、俺」
そして私はまたこの状況下、箪笥(たんす)の上に置かれた色を見つけてしまった。
「あの……、着物って…」
「ん…?ああ…、昔ここで働いていた少年が着ていたもの……らしい」
「……欲しい…」
柘榴と朱殷。
私はその色を、よく知っている。
初めて何かを“欲しい”と思った。
やはり彼は、キツネさんは、この場所にいた人なのだと。
「それ?もうかなり古くさくなってるよ」
「…欲しい、です」
「あげたら泣き止んでくれる?」
はい、と。
私は素直にひとつ、うなずいた。
私の上からそっと退いて、箪笥の上に畳まれていた1枚を持ってきてくれた緋古那さん。
「これを着ていた人は、今どこにいますか…?」
「……さあ。どこかにはいるんだろうけど、本人もよくわからない奴だったから」