「きみの涙にいちばん弱いのは、きっと俺だろうね」
ゆらり、ゆらり。
前髪をくくりあげた場所に留められたそれを、私は目で追いかける。
「…不思議な構造だろ?」
「蝶の……羽ですか…?」
「うん。あえて職人にそう手直しをさせたんだ」
垂れ下がった蝶の羽が付いたかんざしは、どうして片羽だけなのと訴えたくなる。
両羽を揃えてあげたなら飛べたはずだというのに、わざと飛べなくしたのは緋古那さん自身だと。
「…可哀想です」
「……俺みたいに飛べなくさせたかった」
「え…?」
簪、とてもよくあなたに似合っている。
だから飛ばせてあげてもいいんじゃないですか、せめてそこだけでも。
「この状況で簪に負けるだなんて、太夫の名が恥じるんだけれど」
泣かないでと、拭ってくれるには不器用すぎる動きだった。