しかし私としては気になるものでもなかった。

すると4つばかし年上だろう少年は、手にした半分を私のほうへ。



「きみが俺のぶんも食べてくれる?」


「……うん」



ありがとう、だよ。

ここは“ありがとう“って言うんだよ、私。



「今宵は十六夜(いざよい)みたいだ」



満月を見上げたその人を、私は見つめた。



「名は?」


「……ウル」


「ウル…、いい名前だね」



行かないでと、そでを掴んでしまう。

私のような薄汚れた乞食が触ってはならぬ崇高な神様だと思いながらも、まだ一緒にいたかったから。




「いいかウル、生きるんだ。生きて生きて、生きるんだよ。生きてさえいれば……必ず幸福は与えられる」




お礼を伝えられなかったこと。
あなたの名前を聞けなかったこと。

やっぱりお面の下を見てみたかったこと。


それだけが、彼が去っていったあともずっとずっと心に残った後悔となるほど。


のぼった月のうつくしさに、10歳の私は見惚れてしまったのだ。