見惚れるとは、こういうことを言うのだろう。
そばにある緋古那さんの甘さと、新たに現れた彼の風格が思考をぐらぐらと揺らしてくる。
声が似ている気がした、とか。
雰囲気が似ている気がした、とか。
ただ、それだけ。
しかし、止まったはずの涙がもう1度流れそうになったということは。
単純にこの人なんじゃないかって……そんなこと。
それとは別に緋古那さんと彼の会話内容には軽視できないものがあった。
太夫……?
客を騙している……?
「…それは言わない約束なんだけれど?」
「俺は誰からの指図も受ける身ではない」
太夫とは、言わば花魁のひとつ下。
花魁が吉原の顔だとすれば、太夫は芸事に長けた郎子の顔。
花魁と太夫が同じ人物になることもあるが、彼らが別々ということは。
それもこれも、ここまで案内してくれた男性から丁寧にこと細かく教えられた知識だった。