「…俺になにかご用で?水月花魁殿」
しばらく見つめあって数秒、最初に口を割ったのは緋古那さん。
花魁……、
やっぱりそうだったんだ…。
「……手紙を書いた」
「…手紙?客の出迎えじゃないのかい」
「ああ。おまえに手紙だ、緋古那」
「俺に?わざわざ?」
「そう。こうして渡しに来た」
花魁道中とは、入り口まで花魁が上玉客を出迎えたり、呼ばれた宿場へと自らに向かう行為だ。
しかしそうではなく、彼は緋古那さん宛に綴った手紙をわざわざ届けにきたのだと。
今日でなくとも渡せたのではないか。
下男に任せれば良かったのではないか。
そのようなこと、あなたがわざわざすることではない。
誰もが聞いて抱く疑問だ。
「ほんっとうにきみって面白いよ。こんな最下級の見世にいる俺への手紙のために、歩いてやって来るだなんて」
「…よく言う。太夫(たゆう)のくせして客を騙している分際で」
「……………」