「まーた始まったよ。気分屋な花魁道中が」



という、緋古那さんの軽く笑った声。


花魁(おいらん)───、


それは吉原遊郭の最高位に付けられる名。

見た目だけでなく、崇高な知性を持った者にしか与えられない地位。


城が傾くほどの金をつぎ込まなければ買うことができないと言われ、唯一として、客を選べる立場にある存在。


この裏吉原にも同じものがあるということ。


まだ10歳にも満たない禿(かむろ)たちに囲われ、あでやかな着物、高さのある下駄を器用に扱っては大きな傘が当てられている。



「ウル。こちらへおいで」


「あっ、は、はい…」



緋古那さんは私を近くに寄せ、まるで彼がこの場所に来ることを分かっているかのように息を吐いた。

足取りはとてもゆっくりではあるが、間違いなく入り口いちばん近くのこの宿場に向かってくる。


そして、私の前で足運びを止めた。