「俺は緋古那(ひこな)。…きみの名前を教えて」
「う、うるっ」
うわずった声で言うと、ふんわり目尻を下げた緋古那さん。
「…婆や、ウルは特例切手を持っているらしい。登楼したのもきっと初めてだろう」
「そのようでございますな」
「特例切手の客に選ばれた見世は名前がつく。紅だけじゃなく着物も渡してあげたくなったことだし、今夜はこの子と座敷に上がっても───」
そのときだった。
シャリン、シャリン、と、鈴の音が背後の通り道から聞こえる。
「うそっ、まさか水月(すいげつ)さま…!?」
「こんな機会をお目にかかれるだなんて…!ちょっと邪魔よ!下がりなさいよ!」
「なにをっ!あんたこそ…っ」
シャラン、シャラン。
ペン、ペン、ペン。
鈴と鼓(つづみ)の音が、女たちの騒ぎを静める。
客たちは端に寄り、向かってくる存在が歩ける道を自然と作った。
私も呼ばれたような気持ちで覗いてみる。