女が夢を見られる場所だと、彼らは言っていた。
吉原は男が夢を見る場所だとするならば、裏吉原は女が夢を見る場所。
本来は私のような身分の人間が踏み入れることなど許されはしない場所。
ただ、この切手さえあれば。
たとえお金がなくても1度は体験することができる。
「まぶしい……」
まぶしすぎて、立っていることが苦痛にも思えてきた。
けれど吸い込まれそうな明かりが妖術のように誘ってくる。
ずらりと並んだ提灯、奥の奥までつづく家屋に暖簾。
女郎が居座る張り出し見世(みせ)では、煙管(きせる)を吸って手招きをして、女は男に品定めを求めている。
大門の前、そこはやっぱり男の通人たちが行き交う遊郭だった。
「お坊ちゃん、…いや、お嬢さんは今宵はどのようなご用でしょう?」
立ちすくんだ私にそう声をかけてきたのは、案内人なのだろう下男(げなん)だった。