「オレたちなんか、そうするしか生きられなかっただろ。オレはお前と出会う前は……ずっとそうやって生き延びてたんだぜ。おまえには親切な誰かが居たかもしんねーけど、…オレはずっとひとりだった」



今日はきっと、帰ってこない。
なら明日は帰ってくる?明後日は?

積み上げていたと思っていた信頼が、いっきに崩れる音がした。


別によかったの。

お金を溜めて静かな場所で暮らせなくても。


質素でも慎ましやかでも、鷹と笑っていられる日々が続いてくれるなら私はそれで。



「……キツネ…、さん…」



と、私は呼んでいた。

鷹と出会う前、私に食べ物を恵みつづけてくれた人を。


狐のお面をしていて、淡い色の着物を着て、月よりもうつくしいと思ったひと。



『私たちは裏吉原から来た者です。お嬢さんも1度だけ見てみれば、考えが変わるかもしれない。いつでもお待ちしておりますからね』



鷹にだけは隠していた1枚の紙切れを、なぜか捨てることだけはできなかった。