「せんせえ~、ここの指の動きが分からないんですぅ」


「ん?どれ、…こうして弦を押して、余韻を残すことを意識するんだ。わかったかい?」


「きゃ~っ!指が触れ合っちゃったわ…!」



私に訪れた新しい毎日は、琴や三味線の音色で溢れている。

そこに楽しそうな町娘たちの声と、穏やかで爽やかな大好きな声が合わさって。


私はどこかモヤモヤする日々。



「あっ、私もです…!私も指の動きがまーったく分からないんです!先生、教えてくださいっ」


「ずるーい!あたしも!」



あれ、ぜったい狙ってる……。

緋古那さんも近すぎるの。


それをして欲しくて彼女たちはわざと分からないふりをしてること、そろそろ気づいたほうがいいと思うのに…。


芸事の教室でもあり、自宅でもあるこの家は、とと様が用意してくれたものだ。

外には広大な海が広がって、涼しさに乗った潮風がふんわり届いてくる。