そう言って本当に申し訳なさそうな顔をするものだから。

久々知 久兵衛という男は人間ができている、と。



「水月…、あちきたちはもう……本当に自由なんでありんすか…?」


「…ああ。だから、その名前も廓詞も少しおかしいかもしれないな」



裸足のまま、須磨は地面に立った。

土の感触を確かめて、夜の匂いをめいっぱい鼻に通して。


そして何をするのかと思いきや、久々知さんから小太刀を借りた彼女は。


バサッ────、



「八尋っ、月がすごく綺麗だ……!」



壁も格子もない、こんなにもうつくしい月を見たのは初めてだと、頬に止めどない涙を伝わせながら長い髪を切り落とした江奈は笑う。


俺も同じように伸びていた髪を切り、ただの町人となった。



「やひろっ、八尋……っ」


「江奈、……愛している」



“友に最大の幸福を”───渡された手紙の最後には、そう綴られてあった。


寅威、また返事を渡そう。

そのときはもちろん“八尋”として、お前たちに会いに行こう。