はっきりと見えた家紋は間違いなく将軍家のもの。


徳川家の者を殴ってしまった俺─水月─は、そして無礼を働いたおまえ─須磨─は、確実に“殺される”だろう。



「私たちの力があれば、吉原の1人や2人の存在を消すことなど容易いこと。……この者たちは今日をもって死んだのだ」



いいな、と、楼主たちに冷たく言い放って俺と須磨の襟を乱暴に掴む男たち。

こうなってしまえばたとえ吉原と言えど、止めることなどできやしない。


誰も逆らえない、逆らったなら殺される───それが天下の徳川家だ。


吉原の“須磨”と“水月”は、将軍家に逆らったことにより処罰されたのだ。



「あとの処理は私たちにお任せください。君たちはもう自由だ」



とっくに吉原を出て離れた場所まで来ると、それまで眼光を尖らせていた男たちは皆して鋭さをなくす。

やさしく微笑んでくれる顔には、感謝してもしきれない恩で溢れていた。