水月side




吉原で暴れている男がいる───、


そう言われて俺が出る幕など、普通ならあるはずもない。

俺の立場はそう簡単には公に出ないのだから。


しかしそこで「須磨が目を付けられた」と言われたならば。



「水月……っ」


「っ、須磨…!」



須磨を指名できる時点で太客ということは分かる。

そのうえ俺を呼び出せるほどなのだから、どこかの名のある旗本だったりするのだろう。


騒ぎが起きている一室に出向くと、すぐに手を伸ばしてくる須磨。


俺は無我夢中に抱き寄せていた。



「おまえが水月か…!!この無礼な女もおまえも、ここで私が斬ってやる……!!」



それならそれでいいのかもしれないな。

俺はふと、そんなことを思ってしまった。


互いに一番星を掴めたものの、おなじ未来を掴むことはできない俺たちは。


せめて一緒に死んでいけるなら、もうなんだっていいような気がした。