「もういいっ!今日は帰らねーから!!」


「待って鷹…!」



床に落ちた着物。


勢いよく戸が開いて、鷹は走って出て行ってしまった。


今までも喧嘩は何度もある。

結局は腹を空かせて帰ってくる鷹だから、そこに対する信頼関係は作られていたつもりだ。


でも今回は。

今回ばかりは、鷹に寄り添うことができそうにない。



「………、」



夜中だった。

あれから鷹は帰ってくることなく、私はひとりで床についた。


スススと、ぎこちなく開いた戸。


ザッ、ザッ、と草履が擦る音で誰なのか分かった私は眠ったふり。



「……ごめん。…ごめん、ウル」



その声を聞いて、私の頬に涙が流れる。

おなじ布団に入ってくることはなく、床にそのまま身体を倒した鷹。


たったそれだけで私たちのあいだに引かれてしまった境界線。


おなじ世界にはもう生きていないのだと、さみしいことを思わせてくる。